「司法書士は身近な法律専門家です。気軽に相談してください。」私もご多分にもれず、この言葉をホームページで掲載している。ただ“相談する”ということは、意外にハードルが高い。自分を振り返っても何がどうなっているのか？といった状態ではとても相談という段階にまでには至らない。ある程度自分なりに頭を整理してから、ようやくこういうことを相談しようということになる。一方で世の中には、本来あってはならないことが往々にしてまかり通っている。事例をあげればきりがないが、幅広い世代にまたがる問題としては例えば“労働問題”がある。

私は今、司法書士のある組織で法教育に携わっている。社会に巣立つ前の世代を対象に行っている活動であるが、法律知識を細かく教えるといった堅苦しいものではない。今後社会活動をするにあたって「何かおかしいなと感じたときに、法的に問題ではないだろうか、相談してみよう」との思いに至る力を育むことを目的にしている。

この１年間で、いくつかの児童福祉施設にお伺いして法律教室を開催した。児童福祉施設には、児童養護施設や児童心理治療施設などがあるが、そこで生活する子供たちは様々な背景から親など保護者が養育できない環境にあり、１８歳になれば一人で社会に出ていく。このため、“家計の収支”、“契約、インターネットトラブル”、“労働問題”などのテーマに関して要望が強く、先日私は労働問題を担当した。社会に出たとき、「会社の物を壊したから、給与から差し引いておくよ」「一度でも遅刻したからクビだ」「後片付けの時間には残業代つかないよ」「仕事辞めるのだったら違約金払ってね」といった形で対応を迫られる。これらはすべて労働基準法や労働契約法といった法律に反することであるが、何かおかしいと思いつつも押し切られてしまうことにもなりかねない。そういえば私が２２歳で入社した会社では、労働関連の法律について研修で学ぶのは管理職になる段階であり、新入社員時代には何も教えられなかった。本来はこうした知識こそ新入社員時代に必要なのだが・・・

“相談”は司法アクセスの第一歩であり、この相談する力を育てるプロセスが“法教育”である。私は社会に出るにあたって法教育が不足していると考えており（この結果相談すること自体が大きなハードルになっている）、司法書士としてこの法教育に引続き関わっていくと同時に、すべての個人・企業が平等に司法アクセスできるよう相談業務を最も大切にしたいと思っている。

【2021年8月7日】